悪夢と子供(3)
(一日目 05:58)
「あ、泣いてる?」
朝もやにけぶる公園。
ベンチに腰掛け、未だ目を覚まさない堂島を膝枕している広場まひる(No.38)は、
彼が、幼子のように顔を歪めて涙していることに気付いた。
「ぐ……し。 ヒ、ヒくっ…… ぐっ……」
それは悲しみに流す涙の様でもあり、悔しさに流す涙のようでもあり、
後悔に流す涙の様でもあり、同時に絶望に流す涙のようでもあった。
「大丈夫だよ、大丈夫。ね?」
ぽん、ぽん、ぽん。
まひるは幼児を慰める母親のように、堂島の頭をやさしくなでる。
「なんだかぐずる子供をあやす母親みたいだな。」
ベンチの脇で屈伸運動をしていたタカさん(No.15)は、まひるのその様子を見て、からかい半分に声をかける。
「え?そうですか?……えへへ。」
「母親なんて言われて嬉しいのか?その若さで。」
「うん。将来の夢は専業主婦、だったりしたんで。」
笑顔で、そう答えるまひる。
……鈍感なタカさんは、その笑顔には陰が含まれていたことに気が付かなかった。
そして、見た目にはまだあどけなさすら残る『彼女』が、その夢を過去形で語ったことにすら。
「専業主婦ねぇ…… 俺にはよくわかんねぇな。」
「タカさんは……なんてゆうか、いろんな意味で、男っぽい……か……」
へぷちっ!
可愛らしいくしゃみを、1つ。
見るとまひるはTシャツ一枚で、その細い腕に鳥肌を立てていた。
「まひる、お前、そんな格好してるからだぜ。さっきまで着てたパーカーはどうした?」
黒のタンクトップ一枚でも汗すらその額に浮かべている、タカさんはそう忠告する。
「え? えへ。あたし元気な子だから、ちょっとくらい寒くてもだいじょぶ。
それよりも…… 寝てる間は、体温下がってるから。」
……彼の小さなパーカーは、堂島の腹にかけられていた。
「俺も男臭ぇが、お前もいろんな意味で女臭ぇよなぁ……」
いつのまにか泣き止んだ堂島は、今では安らかな寝息を立てている。
その右手は、いつのまにか頭を撫でていたまひるの左手を握っていた。
彼は、優しくその手を包み返す。
「ん…… む……」
ぱちり。
それに呼応するかのように、堂島が目を覚ました。
その顔には笑み。
彼一流の下卑た笑顔ではなく、誰も見たことの無いような、穏やかな笑顔の堂島が、そこにいた。
誤解を恐れずにあえて表現するならば、それはまひるよりも無垢な笑顔だった。
「おかーたま、おはよ。」
えへ。
堂島は元気に挨拶すると、まひるの胸に飛びついた。