愛に狂った鬼と鬼。 その陰に鬼、もう一匹。(6)

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(1日目 5:50)

 鬼作は、目の前を行く人物に置いていかれないよう、足早に後をつける。
 その人物こそ、先ほど鬼作が「利用するに足る」と判断した人物だった。
(ククク……コイツを篭絡しちまえばよぉ、勝ったも同然だぜぇ……)
 鬼作は用意したノートに、ミミズの這ったような汚い字を記す。

  首輪は盗聴器だ。声を出すな。

 ……実のところ、首輪に盗聴器の役割があるのかどうか、彼は知らない。
 (まぁ、こうしたほうが信憑性ありそうだって感じるよなぁ……
  おいおい、おれは、とんだ策士じゃねぇか。)

 そしてもう一行。
 「その人物」を篭絡するための文字を記して、しばし瞑目する。
 ……足の震えを感じる。
(怖い)
 鬼作は臭作の死体を思い浮かべてしまい、震えが全身に伝染してゆくのを感じた。
(やっぱり、こいつの相手ぁ、おれじゃあ役不足なんじゃねぇか?)
 踵を返して、相応の人物を探す。
 そのほうが危険がないのでは?
 しかし、それでは、「勝ち残る」確立が下がってしまう。
 強いヤツ。
 その条件だけは、譲れない。
(ここは引けねぇ。勝負どころだ。)
 鬼作は深呼吸し意を決すると、ノートの文字を指差しながら、その人物に声をかけた。

「よぉ……耳寄りな話があるんだがねぇ?」



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