愛に狂った鬼と鬼。 その陰に鬼、もう一匹。(4)

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「僕は、死ねない。レティシアに会うまで。この胸に再び抱きしめるまで!」
 アズライトが、そう言いながら飛燕の蹴りを繰り出せば、
「ナミだって、ご主人様の元へ帰るんです!!
 ご飯を作ったり、お掃除をしたり、お洗濯をしたりするんです!!」
 なみは、右手チェーンソーの裂魄の薙ぎで切り返す。

 高速移動装置用の冷却タービンが故障しているナミの速度は、
 アズライトの半分ほどしか出ない。
 また、爆風によって右腕を失い、上半身に幾つもの火傷を負ったアズライトは、
 ナミの半分の手数しか出せない。
 お互いが大きなハンデを背負っての戦闘だ。
 それでも。
 彼らの戦いは軽く人の次元を陵駕している。

 身長より高い跳躍。
 重力に逆らうような身のこなし。
 地響きすら生じさせる踏み込み。
 相手を数メートル吹っ飛ばす攻撃。

「君は、愛する者のために、全ての参加者を殺すつもりなの?」
「あたりまえです。ご主人様への想いは、全てのタスクに優先されます。
 あなたもそうなのでしょう?
 ナミには分かります。
 どれだけの人の想いを、夢を、希望を踏みにじることも、
 恋人の為ならば厭わないのですね?」
「呪詛と怨嗟でこの身が朽ち果てても。
 何度別れ、何十度すれ違い、何百年過ぎようとも。
 ぼくはレティシアだけを想い、追い続ける。」
 2人は思いの丈を言の葉に乗せながら戦う。
 今、2人は敵であると共に、理解者にもなりつつあった。

「ぼくたちは、ギリギリまで協力することが可能ではないですか?」

 アズライトは振り上げた拳を下ろし、そう提案した。
「このまま戦い続ければ、どちらが生き残ったとしても、大きなダメージを負うよね。
 生き延びるために戦う者が、目先の勝利の為に消耗することは本末転倒だと思う」
「なるほど……ナミとあなたで殺し合うよりも、
 その分のエネルギーと時間を他人に向けたほうが効率よく参加者を減らせる。
 決着は最後につけよう。そういう考え方ですね。」
「冷たい言い方をすると……そうなるね」
 自嘲するアズライト。
「合理的な判断です。ナミもその意見に賛成します」
 ナミもまた、チェーンソーを下ろした。
「ナミはタイムリミットを迎えるその直前まで、あなたに攻撃的行動をとりません。
 お互い効率よく参加者を殺害してゆきましょう」
「効率よく殺害、か……ぼくも君ほど割り切ることが出来たらよかったのにな」
 アズライトは深く、溜息をつく。

 ―――この盟約を以ってして、今大会の二大災厄、アズライトとナミの戦いは終わった。



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