少女と星の王子様(3)

Prev<< 1st >>Next


(ああ、やっぱり信用するんじゃなかった。
こんな状況でへらへらしてるようなヤツがいるわけないじゃない。
死ぬ前に王子様に会いたかったなぁ…お父様、お母様、若葉、先立つ不幸をお許しください
………それにしてもなかなか意識がなくならないわね。こんなものなのかしら?)
「大…丈…、ねぇ…夫かい?」誰かが肩を揺さぶる。
(私はもう死んでるんだから起き上がれないっての、まったく。
それにしても、お花畑とか大きな光なんて嘘ね。真っ暗だもの。)
なおも、体の振動と呼びかけは止まない。死者に鞭打つものに対して腹が立ってきた。
「うるさいわね!死んでるんだ…か…ら……」目の前で先ほどの少年が笑っている。
「起きあがらないから、手元が狂ったのかと思ったよ」などといっているが、双葉の耳には届かない。
首もとをまさぐると首輪が無くなっている。少年に目を移せば、
相変わらず屈託の無い笑顔を浮かべ、手にはアイスピックを握っている。
どうやらあれで首輪を破壊したらしい、とそこまでは冷静に判断していた。
が、そこでふつふつと怒りが込み上げてきた。
何よりもこの短い期間に二度も勘違いして醜態をさらしたことに腹が立った。
「あんたねぇ、いきなり何すんのよ。死んじゃったかと思ったじゃない!!」
先ほどまでの冷静さが嘘のように、すごい剣幕で翼に詰め寄る。
「首輪をはずしてあげるから、首をアイスピックで突かせてくれるかい
といっても、素直に承知しないだろう?」
「う……」そういわれると双葉は言葉に詰まった。
たしかにそう言われてもにわかには信じられなかっただろうし、
現に首輪は外れているのだ。悔しいけど…
「もういい!!」そう言い捨てて双葉はもと来た道を戻ろうとした。
背後で星川と名乗った少年がショットガンを拾い上げつつ、
深く嘆息するのが聞こえた。


一人になって双葉は考えてみた。
星川と名乗る少年は別にひどいことをしたわけではないこと
(方法にかなり問題はあったけど)
自分が動転してしまったことに対する腹立ちが彼に転嫁されていること
(原因はあいつだけど)
あの少年は命を奪うつもりがなさそうで協力できるかもしれないこと
(利用するかもだけど)
少年が自分のことを王子様と言っていたこと(
たしかに見た目は良かったけど…)
何よりも少なくとも彼はこの状況から一部とはいえ自分を解放してくれたこと
そんなことをつらつらと考えてテクテク歩いていた。
「ねぇ、どう思うこけしぃ?」
傍らの植木鉢に問いかけてみる。
双葉の気持はきまっていた。


「失敗しちゃったかな?うん、次はもっとスマートにやらなくちゃね」
気を取り直して他の女の子を探すべく再び森の中を歩き始める。
「さっきの女の子に道を教えてもらえば良かったかな?」
見上げても夜空すら見えないこの森の中では方角すら知りえない。
「待ちなさいよ」がさがさと背後で音がしたかと思うと、呼びとめられ翼は振り向いた。
少しはにかむようにして先ほどの女の子が立っている。
「あんた、自分の首輪はどうすんのよ?」
「ん…なんとかなるさ。」嘘だ、この首輪は自分でははずせない。
もしはずせるとしたら、それは大勢の人間を殺害し優勝した時だ。
もちろん、そんなことをするつもりは無い。
翼の言葉を聞いて少女は少し思案顔をした。そして再び、桃色の唇から言葉がつむがれる。
「朽木…双葉よ」そっぽを向いてそう言った。
「か、借りもあるし。双葉様が力を貸してあげるわよ。」今度はややうつむいてそう言った。
「ありがとう」双葉に近づき、手を取る。
「一応、首輪…はずしてくれたし、借りを作ったまま死なれたら、寝覚めが悪いからよ…」
と言いつつも差し出された手を握り返してしまう。
「うん、うん、OK、OK。」と嬉しそうに双葉を見て破顔させる。
「道、迷ってたんでしょ。案内してあげる。」と言って歩き出す。彼もそれに従う。
しばらく歩んではたと立ち止まる。
双葉が翼を見つめる。
それに気づいて翼も双葉を見つめる。
二人の時間が止まる。
翼の目に映る双葉の眉がキリリと危険な角度に吊りあがる。

「あんた、いつまで手ぇ握ってんのよ!」



Prev<< 1st >>Next