少女と星の王子様(2)
(AM5:30)
「…なんか、さっきから同じところをぐるぐる回っている気がする。」
森に入ってから、かれこれ四時間以上歩いている。今通りすぎた木も先ほど見た覚えがある。
「道に迷っちゃたかな?」
どこを見ても同じような木ばかり生い茂っており、自分がどこにいるのかさえ見当がつかない。
「僕を待っている女の子のためにも急がなくちゃ…」
その時、突然眼前の茂みが動いた。そこには…
「あーあ、あの場所結構気に入ってたのになぁ。あのバカ男がこなけりゃもう少し時間つぶせたのに。
思い出しらまた腹立ってきたわ。」
双葉は胸元に抱える植木鉢に向かって話し掛けている。
事情を知らないものが見たらさぞかし危ないやつに見えたことだろう。
「それにしても大きな森ねぇ。私にとっては好都合だけど…」
そう呟いて茂みをかき分けて進むと、少し開けた場所に出る。
次の瞬間、双葉の背筋が凍りつく。
そこには片手にショットガンを携えた制服姿の少年が立っていた。
(や、やばいわね…)脇腹のあたりを嫌な汗が伝うのが分かる。コクリと喉がなる。
少年が一歩踏み出す。膝が震えて、上手く動けない。
その間にも、少年はどんどん近づいて来る。
今や目の前にまで迫る少年は手にしていたショットガンを放り投げると
双葉の顔を覗き込んだ、満面の笑みを浮かべて。
予想外の行動に唖然とする双葉に少年は明るい声でこう言った。
「ねぇ、君の名前は?僕は…
目の前の茂みが蠢き、植木鉢を抱えた女の子が出てきた。
肉付きの薄い華奢な体つきだが、整った目鼻立ちをしている。
嬉しくなった翼は手にしていた武器をその場に投げ出し、いつもの自己紹介を始めた。
…と呼んでくれていいよ。」いつもの柔和な表情を浮かべて自己紹介を終える。
「あ、あんたバカじゃないの?自分のこと王子様だなんて。」呆気にとられたことへの照れ隠しか、
はたまたその時の顔(さぞかし間抜けな顔をしていただろう)を見られたことへの羞恥心か、いささか語気が荒い。
それに顔が燃えるように熱い。
「何をそんなに怒ってるんだい?可愛らしい顔が台無しだよ。」
さらりとそんなことを言う翼にさらに顔を赤らめて双葉は、
「あんたみたいなやつに褒められたって全然嬉しくなんかないわよ。」
そう言いつつも、まんざらではなさそうだ。
「つれないねぇ」きびすを返し去ろうとする双葉に、翼はため息などついてみる。
そういう翼を尻目に双葉はスタスタと歩き出す。
「まぁ、待ちなよ。助かりたくはないかい?」去りゆく少女に追いすがりながら、そういってみる。
少女は立ち止まる。振り向こうかどうか決めかねているようだ。
「僕なら君の首輪をはずせる。」きっぱりと真剣な表情で翼はそういった。
(こいつ…今なんて言ったの?首輪をはずせるですって?
こんなゲームに参加してやる気はないけど、はずせるのならはずしてもらったほうがいいかも…)
などと考えつつ、首に手をやり首輪に触れる。ヒヤリと冷たい、硬質な手触りが感じられる。
「本当にはずせ…」
そう言いながら後ろを振り向いた瞬間、双葉の目に映ったのはすぐそこまで近づいた少年
、その右手は…腰のあたりから何かを抜こうとしている!?
(だまされた…さっき捨ててた銃は誰かを殺して奪ったんだ…)
死を覚悟し、かたく目を瞑る。
ガクリ、と双葉の膝が落ちた。