闇の獣と闇のデアボリカ(3)

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(AM4:35)
一人の参加者を殺害した後、すぐにアズライトは遠くを行くかすかな足音、枯葉を踏みしめる音を察知した。
(まだ、この近くに誰かいる。また…人を傷つけて、殺して……僕は…レティシア…)
人から畏怖されるデアボリカの身であっても、彼には人を傷つけ、あまつさえその命を奪うことに強い抵抗がある。
それも自分のためにというのだからなおさらである。
「でも…戦うことに決めたんだ。」
(…レティシアに会うために。)
落ち葉が舞い上がり、アズライトはその姿をかき消した。


薄暗い森を抜けると、一人の少女が視界に飛び込んできた。
先ほど男を殺したときの要領で、走りながら腰を落とし地面に転がる小石をいくつか拾い上げる。
(せめて、苦しまないように…)
空気の壁を突き破るドンという轟音とともに、四つの小石が飛ぶ。
その先には月明かりに生み出された長い影を引きずるようにして歩く少女、
松倉藍が、ふらふらと歩いていた。
音速の小石は彼女の心の臓を撃ち抜き、それで終わりのはずだった。
しかし、事実はさにあらず。
命中のその瞬間、愛は猫科の動物を思わせるしなやかな動きでその場を飛び退った。
と同時に、、彼女は「闇」になる。
「あの子、ただの人じゃない!?」アズライトは思わず息を呑む。
これが藍の覚醒、その力。
彼女を中心とした闇は、いまやアズライトをも呑もうとしていた。


月の光も届かぬ闇がアズライトを覆い尽くす。
少女は完全に闇となってしまったのか、アズライトの鋭敏な五感をもってしても位置を特定できない。
ぞわり、先ほど少女がいたあたりで何かが蠢く。
それがアズライトから遠去かりつつあることに気付き、再びそちらへ石礫を放つ、
と同時にそちらへ向け残像だけを残し疾走する。
「逃がさないッ!!」気を吐き、さらに加速する。
突然、アズライトの右の闇が動く。
「こんなところに!?」
不意をつかれたアズライトは力任せに大地を蹴り左へ飛ぶ。
胸のあたりの薄皮が裂け、衣服に血がにじむ。
その闇の体を翻し、獣が遠くへ走り去るのが分かる。
やがて闇はひき、そこに少女の姿はすでにない。
「逃がしちゃった…けど…」
アズライトは少女が逃げたであろう方を見やり、悲しげに眉をひそめた。



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