協調と崩壊と(2)
その時、泰男が笑った。この場には最も似つかわしくないであろう、さっぱりした笑い。
「ハハ……やっぱり駄目だったか……」
「!?」
「……大丈夫、もう抵抗はせんよ……手を、解いてくれないか?」
その自然な言い方に、思わずまりなは手を離してしまった。
撃ち付けた所をさすりつつ、泰男は彼女に向き直る。
多少タキシードが汚れている所を除けば、実に紳士的な壮年であった。
「さあ、君の勝ちだ……私を殺してくれ」
「ち、ちょっと待ってよ!」
慌ててまりなが言った。
「誤解しないで。私は殺し合いをするつもりは無いわ」
「?」
「協力してほしいの、一人でも多い人にね」
説明しつつ、ヒールに隠していた手帳を取り出す。
「君は……?」
「内閣調査室……まあ、言ってみれば日本のCIAみたいなものね……そこの諜報員
って訳。目的は……この馬鹿げた大会の調査って所かしら?」
この大会の情報は極めて奇妙であった―――存在こそすれ、確認したものなし。
噂と失踪者のみが存在し、現物を知るものはいない。
このゲームに参加し、内情を調査し、生き残れ……成功率99%を誇る法条まりなに
託された、それが指令だった。」
「しかし、私は君を……」
「気にしてないわよ。誰にも引けない物がある事くらい、私も知ってるわ。
……それに、オジサマには負けない自信があったから」
そう言うとまりなは悪戯っぽく笑い、軽くウインクした。
「………すまない」
深深と頭を下げる泰男。その顔には後悔の念が浮かんでいる。
「……駄目だな……私は。あの場でルールが説明された時、私はもう自分の事しか
考えられなくなっていた。家に帰って……息子と……娘に……会いたかった。
だから……生き残るために、君を……殺そうとしてしまった……」
「それが……普通だと思います……。息子さん、いるんですね」
「ああ……私の店の支店長をやっている……自慢の息子だったよ……」
「……帰りたくありませんか?皆で、一緒に」
まりなは力強く言い放つ。泰男は驚いてまりなの顔を見つめた。
美しくも凛とした瞳。そこには泰男が感じていた不安を消し飛ばす強さがあった。
「……できると思うのかね?」
「思うのか?じゃないわ……やるのよ、絶対に」
一片の迷いも無い返事に、泰男は微笑み、手を差し出した。
「……分かった……私で良ければ、力に……」
その瞬間―――
「な……」
泰男の右腕が、消えた。