眠り姫と暗殺者(1)
(0:46)
アインの前に、遙が倒れている。
死んではいない―――眠っているのだ。
正直、判断に苦しむ状況であった。
後続を早期に仕留める為に自分が戻ってきた時には、彼女は眠っていたのだから。
無論アインは遙が外見以上に年上の、いわゆる成人である事も知らなければ、
彼女が最近になって三年間に渡る昏睡状態から回復したばかりである事も知らない。
何にせよ、絶好の好機である筈であった。
「……………」
無言でアインは配給された武器―――刃渡り20p程のナイフを手に取った。
旧ソ連特殊部隊仕様スペツナズ・ナイフ。必要とあらば手元のスイッチで刃を射出
する事も可能、白兵・奇襲どちらにも使える、彼女にとっては大当たりの得物だ。
すやすやと眠る遙の顔をアインは再度見つめる。
微かな記憶に残る、童話「眠れる森の美女」とはこの様な寝顔だったのだろうか。
「……大丈夫……痛みを感じる事無く、死なせてあげるわ……」
僅かに芽生えてしまった感傷を必死に殺しつつ、アインはナイフを振るい―――
彼女の背後に迫っていた、触手を切り落とした。
「………!?」
校舎入り口、そこから這い出る触手達。
更にその奥からは高笑いのような叫びが聞こえてくる。
「クッ……!」
自分が判断に時間を掛け過ぎた事を悔やみつつ、アインは自分に向かう触手を切断する。
相手の能力が未知数である場合、撤退せよ。
訓練で叩き込まれた戦略が、今度は迅速に判断を下す。
とっさにアインは傍らの遙の体を軽々と持ち上げると、森の中へ逃げ込む。
触手が触れた所が、少しひりひりと痛んだ。