Ein

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(一日目 8:44)

「アイン、一つ訊きたい事があるのだが」

 今まさに病院から出発しようとしていたアインに、トイレに行った魔屈堂を待っている
エーリヒが声を掛けた。

「……何ですか?」
 アインは訝しげにエーリヒを見る。
「ドイツ語で"一つの"という意味の"ein"というコードネームらしき名前、
 参加者が殺し合いを強制されるというこの非日常的な状況下においての沈着冷静ぶり、
 ……君は何らかの特殊な組織で訓練を受けたことがある、そうだろう?」
「……ええ、その通りです。それが何か?」
 エーリヒの質問に、アインはしばらく沈黙してから答えた。

「やはりそうか。その組織はドイツにあるのか?」
「いえ、アメリカにあります。……すみませんが、それ以上は協力関係にあるあなたにも
 言えません」
「いや、それだけ聞ければ十分だよ。答えてくれてありがとう」
「訊きたい事はそれだけですか? それならもう出発しますが」
 そう言って、アインはエーリヒに背を向け出発しようとした。

「もう一つだけ。君は実際に人を殺したことがあるのか?」
 アインの背中に向かって、エーリヒが声を掛ける。
「ええ。何人も」
 振り向かずにアインはそう答えた。
「そうか。……分かっているとは思うが、我々の行動基準は、情報と資材の収集をメインに、
 余裕があったら人命救助をこなす、だ。無用な殺人は……」
「その点は理解しています。
 ……ただし、殺人ゲームに乗った人間は躊躇なく殺しますが」
「できれば殺す前に説得を試みて欲しいのだが……」
「それは約束できません。先程も言いましたが、私は神楽ほど楽観的にはなれませんから。
 では、私は廃村の方へ行きます」
「昼頃にはここに帰還するようにしてくれ」
「分かりました。それでは」

(アイン……彼女はいわば研ぎ澄まされた刃だ。果たして、私に御しきれるのか)
 病院を出て行くアインの背を見ながら、エーリヒの胸にそんな思いが浮かんだ。



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