バンカラ夜叉姫・困惑編
(一日目 6:01)
なんだか気持ちの悪い放送だったね。
聞いてるこっちの神経がどうにかなっちゃいそうな笑い声でさ。
それにしても6人も死んでるんだね。
悲しいことだけど、殺る気になってるのは夜叉姫だけじゃないんだね。
……おや?
夜叉姫の実験作業の手が止まっているね?
束ねた髪を、指で弄っているよ?
これ、彼女がうろたえているときのサインなんだ。
沈着冷静、卑怯千万が売り物の彼女にしては珍しいね。
ちょっと様子を見てみようか。
<沙霧の思考>
今の放送、「以上六名が死んでしもうた」と言っていましたよね。
六名?
どういうことでしょう。
このレーダーで消えた光点は、七つだというのに。
私が勝手に光点消失を死亡だと思い込んでいただけで、実際は何か別の要因で消えたということ……?
それとも、一人分のレーダー反応物が誤動作を起こしているということでしょうか?
……いずれにしろこのレーダーの信頼性について、考え直す必要がありますね。
幸い、ここは開けた土地で見晴らしも良好です。
接近者の目視も容易ですし……そうですね。
ここで迎え撃つ。
いえ、誘い出して、レーダーの有効性を確認するというのはどうでしょうか。
目視で確認した死と共にレーダーの光点が消失するなら、
完全に信頼は出来ないまでもこれに利用価値はあるということです。
この場合、トラップを設置しつつ逃げ回るというスタンスを継続できますね。
死とレーダーに関連性がないと分かったら、スタンスは篭城に変更したほうが良いでしょうね。
むやみに動き回るより、安全性が高いですから。
その場合は……そうですね。
山の中腹にある「竜神社」あたりが、狙い目でしょうね。
竜神と名が付けば、たいていの場合、水神。
この島の水源が近くにあるということでしょう。
雑貨屋で非常食やビタミン剤は十分手に入れましたし、新鮮な水が常時手に入るのなら、
長期の篭城が可能ですからね。
さて、そうと決まれば。
篭城戦になったときのことを見越しての、トラップテストも兼ねましょう。
頭にあるトラップのアイデアを一通り試してみて、利便性や有効度を分析しておけば、
今後、より有利に戦局を運べるでしょうから。
一から十まで思い通りになるのがとてもつまらないということは、
今までの人生でイヤというほど経験してきましたし、
このくらいのハプニングと計算違いは、程よい緊張感を与えるエッセンス。
ふふふ……私、久しぶりに高揚しているみたいですね。
<沙霧の思考、終了>
……なんだ、いつもの夜叉姫じゃないか。
むしろ、さらに殺る気をつのらせたみたいだよ。
凹んだ彼女の泣き言が聞きたかったんだけど、がっかりだね。
彼女、凝り性だからね。
きっとものすごい質と量のトラップ群を設置するんだろうね。
で、また死人を出す、と。
くわばらくわばら。