アイテムチェック
(1日目 8:30)
「本陣の守りは…」
「エーリヒ殿、編成を決めるのは少し待ってもらえんかな?」
エーリヒが編成を告げようとしたまさにその時、魔窟堂がそれを止めた。
「どうしたのだ? ヘル野武彦」
予想外の相手に話を遮られ、エーリヒは少々は鼻白んだ。
「あ、気を悪くさせてしまったようじゃの。すまぬ。
いや、一つ重要なことを確認し忘れていたことに気付いての」
「重要なこと?」
「それは何なのですか?」
「?」
「……」
不思議そうな顔のエーリヒ・神楽・遙。
無言で魔窟堂を見詰めるアイン。
魔窟堂は彼らを見回し、おもむろに言った。
「そう、わしらはお互いに支給されたアイテムの情報交換をすべきではないかの」
「なるほど」
「確かにそうね」
「一理あります」
「……えっと、私も……そう思います」
魔窟堂の言葉に他の4人は相槌を打った。
「それでは、私から順番に自分に支給された物を言っていくことにしよう。
私に支給されたのはレーザーガンだ」
『レーザーガン!?』
エーリヒが自分に支給された物を告げて懐から取り出すと、魔窟堂を除く3人が驚きの声を挙げる。
「私のいた時代にはまだフィクションにすぎなかったが、今では実用化されているのではないのか?
ヘル野武彦にそう聞いたのだが……」
「私の知る限りでは、研究はされているものの、まだ実用化はされていない筈よ」
「私もレーザーガンが実用化されたという話は聞いたことがないです」
「え、えと、私はあまりそういうのには詳しくないです、ごめんなさい」
「うーむ……どうやらレーザーガンが実用化されているのは、わしのいた世界だけのようじゃな」
アイン達3人の反応を見て、魔窟堂はポンと手を叩き納得する。
「どうやらそのようだな」
「……あなたが嘘をつくメリットはないから、そういうことになるわね」
頷くエーリヒ。半信半疑ながらも信じることにするアイン。
「違う時代や世界に住む私たちを同じ島に集めることができる。
……一体、主催者って何者なのでしょうか?」
神楽がふと口に出した問いに答えられる者は誰もいなかった。
「まあ、主催者について考えるのは後にして、支給品の確認を続けんかな?」
沈黙を破ったのは魔窟堂だった。
「……そうね。主催者について考えようにも、今はまだ情報が少な過ぎるわ。
考えるのは後にしましょう」
アインは首肯し言った。
「私に支給されたのはスペツナズ・ナイフよ。旧ソ連特殊部隊仕様のね」
そして、皆にナイフを見せる。
「『旧』ソ連? ソ連は滅んだのか?」
「ええ、今から10年程前に解体しました」
「そうか……」
エーリヒはかつて戦ったこともある国家の消滅を思い、しばし感慨に耽った。
「それと、さっき輸血をしていた時に藍の所持品を調べておいたけど、何も持っていなかったわ。
何者かに攻撃されて逃げる途中で落としてしまったようね」
エーリヒの反応は気にせず、アインは淡々と言った。
「ふむ、何も持っていなかったということは、そういうことになるのう」
「おそらくそんなところだろう」
アインの推測に魔窟堂とエーリヒは同意した。
「わしに支給されたのは箱入りのチョークじゃ。
武器としては役に立たんが、たくさんあるから、木などに目印をつけたり、
他の参加者にメッセージを残すのに使えるじゃろう」
魔窟堂は自分のバッグから何ダースものチョークを取り出し、皆に見せた。
「私に支給されたのは『他爆装置』というものでした。
……既に使ってしまったのでもうありませんが」
魔窟堂に続いて神楽がそう言った。
「他爆リング?」
「何だねそれは?」
「はい、一緒にあった説明書によると、発信指輪と受信指輪のセットになっていて、
発信指輪を装着しているものが死亡すると受信指輪が爆発するというものです。
発信指輪と受信指輪の距離が3M以上離れても、受信指輪が爆発します。
指輪を外したり、指ごと切り落としても爆発するそうです。
また、発信機と受信機は外見で区別することは不可能だそうです」
「ほぉ、それはまたユニークな指輪じゃな。できれば見たかったのう」
魔窟堂は残念がった。彼は珍しいアイテムには目がないのだ。
それを尻目にエーリヒは神楽に質問する。
「それで、カグラはそれを誰に使ったのだね?」
「途中で会った2人の男性に取り付けました。
冷静さを失って殺し合おうとされていたので、気絶させてその間に。
それがどんな物なのか説明した書置きを残しておきましたので、
きっと今ごろは反省してお2人とも仲良くやっていると思います」
「なるほど。もしも再び会えた時にその2人が冷静になっていたら、
この病院に連れて来るのも良いかもしれんな」
「私はそこまで楽観的にはなれないわ。
一度人を殺そうとした人間が、そう簡単に改心するとは思えない」
「あなたはどうしてそのようなことをおっしゃるのですか!?
あなたは他人を信じることができないのですか!?」
「……私には盲目的に他人を信じることはできないわ」
「なっ、何という事を言うんです。撤回してください!」
神楽とアインの間に険悪な空気が流れた。
「まあまあ、2人とも落ち着かんか。
仲間割れしていては、人命救助も島からの脱出も主催者の打倒もできんぞ」
魔窟堂は2人に割って入った。
「……ごめんなさい。言い過ぎたようね」
「いえ、私の方こそ申し訳ありませんでした」
アインと神楽は、この場でこれ以上言い争っても無意味なことに気付き謝り合った。
2人とも納得はしていないが。
その様子を魔窟堂は満足げに見眺めた後、先ほどから会話に参加せずボーッとしていた遙に声を掛けた。
「さて、残るはお嬢ちゃんの支給品だけじゃな」
「えっ! あ、は、はい!
えと、そういえば私、何が支給されたのか確かめてませんでした。何が入ってるのかな……」
そう言って遙はバッグの中をごそごそと探り、中身を見た。
その途端、遙の顔色が真っ青になった。
「ん? どうかしたんじゃ?」
「ご、ごめんなさい! 私、ただでさえ役立たずなのに、支給品も役に立たない物でした」
不思議そうに尋ねた魔窟堂に、遙は申し訳なさそうにバッグから小麦粉を取り出した。
「小麦粉ですね」
「小麦粉じゃの」
見たままの感想を言う神楽と魔窟堂。
「……やっぱり、こんなもの武器にならないから役に立たないですよね」
「いや、そんな事はない。小麦粉は使いようによっては強力な武器になる。
そうだろう? アイン」
そう言って、エーリヒはアインの方を見た。
アインは試されているのに気付き、求められている答えを言う。
「粉塵爆発という言葉を聞いたことがないかしら。
密閉された部屋を、塵や石炭の粉などの粉末状の物が空気中に充満した状態にして、
火花や閃光などで引火させると大爆発が起きることよ。
そして、小麦粉でも粉塵爆発を起こすことはできるわ」
「その通りだ、アイン。
だからハルカ、君が落ち込む必要はない」
「え? そうなんですか?」
「うむ、落ち込むどころか喜ぶべきじゃな」
「それに、小麦粉はお料理にも使えるじゃないですか」
「……よかったぁ」
小麦粉が役に立つと言われて、遙は心の底から安堵した。
「ただ、いざという時に確実に粉塵爆発を起こすなら、ライターがあった方がいいわね。
誰かライターを持っている人はいる?」
「ライターなら私が持っている」
アインの問いにエーリヒが応じ、ポケットからライターを取り出した。
「おお! エーリヒ殿、それはもしや軍用のオイルライターでは?」
「その通りだが、それが何か?」
「この島から無事脱出できた暁には、ぜひそのライターをわしに譲ってくれんかの」
「別に構わんが、これは、形が弾丸に似ている以外はこれと言って特徴のないアルミ製のライターだぞ」
「いや、そんな事はない。
わしにとっては、ドイツ軍で使われていた軍用ライターというだけで価値のある物なのじゃ」
「……そうなのか。日本人はドイツ軍の事をそんなに愛してくれているのか」
それは違うと女3人は思ったが、感動しているエーリヒに水を指すのも悪いと思い、指摘しないことにした。
「さて、支給されたアイテムの確認も終わったことだし、エーリヒ殿、部隊編成を発表していただきたい」
「ああ、了解した」
エーリヒは数秒間黙考した後、口を開いた。
「ハルカとアイは、先程も言ったように本陣であるこの病院に残しておく。
そして、本陣の守りは治癒能力を持っているカグラに任せる。
残りの3人は行動部隊で、私とヘル野武彦の2人組とアインの単独行動に分ける。
以上だ」