自分の中で生まれつつあるその感情が
世間では何と呼ばれているのか
彼女は知らなかった。

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(1日目 5:39)

 「どんどんぴ〜ぴ〜ぱふぱふぱふ〜〜〜〜〜!!
  島のあなたは知らないけれど、魔界のみんなは知っている。
  闇夜を統べる大魔王・アリスメンディだいとーじょー!」

帰ってきたランスさんの脇には、赤い髪をした女の人がいらっしゃいました。
 「他のいい女を、助けにいく。
  俺様の愛は、世界中のいい女全てに平等に注がれるのだ」
確かにランスさんはそうおっしゃっていました。
ですから、女の人を連れて帰ってきたことは、不思議でも何でもありません。
でも、その人を見たとき私は―――
どうしてか分かりませんが、少しだけ淋しい気持ちになりました。

 「……ユリーシャ。こんなやつだがこいつも俺様の女だ。仲良くしてやれ」
 「はい」
 「こんなやつってどおゆうこと、ぷんすか!!」
 「意味不明な擬音語であいさつをするようなヤツということだ」
 「ぜんぜん意味不明じゃないよ?
  たいことらっぱと名前知らないやつの音。
  ほら、黒いゴムまりに、らっぱの先っちょがついてるやつ。
  こんなふーにつまむと、ぱふぱふぱふって」
 「……ユリーシャ。俺様は疲れたから、寝ることにする」
 「あははははは、そりゃとおぜん。
  ランスてばあれからもっかい、ちょ〜〜〜〜ぜつおっきいのでズンズンするんだもん。
  わたしのおま○こはあかあかのひりひりだよ!」

え?
ランスさん、この女の人にも、私にしたような、はしたないことをされたのですか?
―――私は、どうしてか分かりませんが、少しだけ悲しい気持ちになりました。


 「ユリーシャ、お前も疲れてるだろうが、見張りを頼めるか?」
 「はい」
 「何かあったらすぐ起こせ。
  何も無かったら、3時間で起こせ」
 「分かりました」
 「じゃあアリス。寝るとす」
 「おねえさんはわたしより疲れてるよね、ね、ね!?
  だからわたし!!
  最終見張り兵器ことアリスが、ずずいっと見張りに立ちま〜〜〜〜〜〜す!!」
 「却下だ。お前に見張りを任せるのは不安だからな。
  ユリーシャが適任だ。」

わたし、頼られているのですか?

 「はい、ご期待に添えるよう、努力いたします」
 「うむ、良い返事だ。さすがは俺様の女だ。ガハハハ」

そうお笑いになりながら、ランスさんは私の頭をがしがしと撫でられます。
それはとても乱暴で、髪の毛が引っ張られて少し痛かったのですが、
―――それでも私は、なぜか嬉しいと感じました。

 「ちょ〜〜〜〜〜ぜつおこれる!!
  わたしの視力を見くびらないで欲しいなっ!!」
 「……視力じゃない。注意力の問題だ。
  お前と会話してるとリアみたいで疲れる。
  ほれ、いいからお前も寝ておけ。奥に行くぞ」
 「……わかったり……」
 「なんだって?」
 「…………洞窟、怖かったり怖くなかったり」
 「アリス、お前、闇夜を統べる大魔王なんだろうが」
 「暗いのとせませまなのとは別だよ〜〜〜。
  せませまはすんっっっごい怖いじゃん!!
  カベがどんがらがっしゃんってなったらど〜〜〜するよど〜〜〜するよ!?」
 「そんなことは滅多に起こらん」
 「それわ、めったにはおこらなくてもさ、たまにはおこるってことじゃん?
  せめてさ、ダッシュ10秒で出口のとこで寝よ?」
 「むう……仕方ない、妥協してやるから黙って寝ろ」
 「ね、寝る前にもっかいする?」
 「せんわ!!」



(5:55)

 ぐご〜〜〜〜、ぐご〜〜〜〜。
 すぴ〜〜〜〜、すぴ〜〜〜〜。

すぐにランスさんの鼾とアリスメンディさんの寝息が聞こえてきました。
鼾はとても粗野な感じがして、私は好きではありません。
でも……

 …………。

鼾が聞こえなくなると、胸がざわざわするのはなぜでしょう。
ランスさんは、今私のすぐ後ろで寝ていて、どこかに行ってしまった訳ではないのに。

 …………。

……ランスさん、ちゃんとそこにいらっしゃいますよね?

 …………。

私はランスさんに頼られて見張りをしているのですから、
しっかりとその期待に応えないとなりません。
後ろを振り返って、ランスさんの姿を確認するなんて、してはならないことです。

 …………。

ランスさん、おねがい。
鼾をかいてください。

 …………。

ランスさん……

 「ごめんなさい」

ユリーシャは悪い子です。
胸のざわざわが押さえきれなくなって、後ろを振り返ってしまいました。

 ……ほっ

ランスさんは私のすぐ後ろで、大の字になってお休みになっていました。
そして、そのすぐ隣に、アリスメンディさん。
ランスさんの左脇の下で丸まって、その胸に頬をすり寄せて、お休みになっていました。
おへそを出して、すぴすぴと。
とても気持ちよさそうに。
幸せそうに。

そのとき私は、どうしてか分かりませんが、
本当に、分からないのですが、
アリスメンディさんを好きになれそうにない―――そう、思いました。



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