メイドさんもいっしょ
夢を見ている
ドレス姿のアタシは、真っ白な建物の前に立っている
アタシは泣いていた。
雪の降り続く中、アタシはいつまでも―――
って、なんでこんな板違いの夢を見てるんだ?アタシは。
まどろみの中、アタシは心の中で手をぶんぶん振ってその夢を追い出した。
冗談じゃない。癒されるのは病院で墓場に片足突っ込んでからで充分だ。
正直、気分が悪かった。
嫌な夢を見たからって訳じゃない。発作の「なごり」って奴だ。
全く、天下無敵の常葉愛様がみじめなもんよ。
―――アレ?
そういえばアタシ、なんで発作なんて起こしたんだっけ?
BB団……はこの間アタシが滅ぼしたし。
最近はそこまで暴れた事、無かったんだけどネェ。
それに、アタシが目覚める頃になると来る筈のあゆみも来ない。
どうなってんだ、こりゃ?
えーと、昨夜の記憶を思い出してみよう。
確か昨夜は笑う犬を見てて、内村の熟年主婦のマネが無性にやりたく
なって……どうせならってんでサンシャイン60の外壁駆け上がりを
やったんだ。うん、覚えてる。
それが成功して、屋上で一息ついてたら……急に意識が遠くなって……
……次に気がついた時には暗い建物の中にいて……。
武器渡されて、どうしたもんかと思ってたら……
さおりちゃんと……
しおりちゃんが……
!!?
アタシのアホッ!寝てる場合かッ!?
(一日目 5:47 廃村西の小屋)
「アタシのアホッ!寝てる場合かッ!?」
「わあっ!?」
「きゃんっ!?」
突然叫んで跳ね起きた愛に、ちょうど様子を見ていたさおりとしおりは
揃って驚きの声を上げた。
「お姉ちゃん!」
「もうだいじょうぶなの!?」
「ああ、アタシは平気……アンタ達こそ、大丈夫だったみたいね」
二人に気付いた愛は、安堵の表情で言った。
「うんっ、ちょっと恐かったけど、私がんばったよっ!」
さおりの元気のいい返事に、思わず愛は彼女の頭を撫でる。
「そっか……ありがと(なでなで)」
「えへへっ……それに、クレアお姉ちゃんが助けてくれたの」
「……『クレアお姉ちゃん』?」
聞きなれない名前にきょとんとする愛。横のしおりが続ける。
「実は、お姉ちゃんが起きるのを待ってる間に……さおりが泣き出しちゃって……」
「あーっ!しおりお姉ちゃん、それ言わないでって言ったのにー!」
「ダメよさおり、お姉ちゃんに嘘ついちゃ。……で、それを気付かれちゃって……」
「な……それじゃ!?」
「大丈夫だよ、お姉ちゃん!」
再び語気を荒げる愛を慌ててなだめるしおり。
「クレアお姉ちゃんはすっごく良い人なんだよ。ここにあるものを色々
探してくれたし、お姉ちゃんの看病もしてくれてたの」
「……看病?」
言われてみると、小屋の様子が少し変わっていた。
入った時には真っ暗だった小屋には小さいながらも蝋燭の火が灯され、
まだ夜明け前の室内をぼんやりと照らしている。
しかもご丁寧に外に光が漏れないように、窓には黒布まで付けられていた。
愛自身も、脱がせられない神のブルマーは別として、少し厚手の寝間着
に着替えさせられている。
それに、どこからともなく匂ってくるこの香りは……?
「あ、気付かれたんですね」
その時、小屋の裏口に当る扉が開いた。
エプロンドレスの似合う、栗色の髪の女性が顔を出す。
「……もうすぐ朝食の準備ができますから、少し待ってて下さいね。
裏にまきが残っていたので、火が起こせそうなんです」
「……あー」
その余りに自然な態度に、少し愛は面食らう。
「どうかしましたか?」
「あー、その、何か世話になったみたいね」
「フフッ、お互い様ですよ。私も一人で心細かった口ですから……。
一緒に行動する相手が欲しかったんです」
そう言ってクレアは微笑んだ。
「オートミールは食べられますか?」
「え?あっ、うん」
「良かった……配給された食糧だと、それくらいしか作れないので。
それじゃ、まだ休んでいてください……」
ぱたん。
そう言ってクレアは扉を閉じた。しおりが愛に尋ねる。
「ねっ、良い人でしょ!クレアお姉ちゃん」
「……え?ええ、そうね」
一瞬とまどいながらも、愛はしおりに笑って答えた。
(……あの女、何か一枚持ってそうね……しばらくは様子見かな……)
一方、小屋の裏口では
(……あの双子の娘はともかく、あの娘は勘が良さそうね……)
懐から例の瓶を取りだし、しばし見つめるクレア。
(……さて、今使うか……まだ待つか……?)