サイボーグ戦士、誰が為に戦う(2)
「え、え」
遥は、その魔屈堂のスマイルが、自分に向けたサインだと勘違いした。
実際のところ、魔屈堂はただ「画面に向かってポーズを取った」だけであり、
端的にいうならばカッコつけてみただけにすぎない。
だが遥にはアニメーションやコミックのお約束など知らなかった。
ましてや、それをリアルで実行する人間がいようとは、想像の外だった。
「え、えと、その」
だから、遥はこう思ったのだ。
次は、自分が何か歌え。あの老人は、そういっているのだと。
慌てた。もとより、人見知りが激しく、童話が好きな以外に何の取り柄もない少女である。
国語の授業が頭の中を駆け巡る。
昔、恋文として和歌を送られた女性は、下の句を返歌として文を返したという。
いや、それは何の関係もない。今老人が歌っていた歌は、アニメか何かの歌だ。
「ぽ、ぽ」
「ぽ?」
おうむ返しに、魔屈堂が尋ねる。
カッと身体中が火照った。
「ぽっぽっぽー、はとぽっぽー」
遥は、歌った。力強く、朗々と。
「まーめが欲しいかそらやるぞー」
ゆっくりと、力一杯。お腹に力を入れて、肺から空気を搾り出すようにして。
歌い終わって、改めて冷静にまわりを観察すると、全員が武器を下ろしていた。
「え、えと。次、おじさんです」
「わ、ワシか?」
遥に指名されて、慌てるエーリヒ。
そのとき、ドサっと音がして、傍らの魔屈堂が今度こそ床に倒れ伏した。
「い、いけない。血、血、ほーたい!」
一旦は落ちついた場が、再び騒がしくなった。