守りたいもの、ありますか?(3)
(一日目 3:07)
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
篠原秋穂(31番)は走り疲れていた。学校らしき建物を出てから森の中を闇雲に走り続けること約2時間。
とある企業の総務部人事課で毎日コピー取りとお茶くみに追われ、普段あまり運動する機会がない秋穂にとってはかなりの運動量だ。
体力は既に限界に近い。
「はぁ、はぁ……もうこれ以上走るのは無理だわ。どこか簡単に見つからない安全な場所は…」
秋穂は立ち止まって周囲を見渡す。
目の前には小高い山が見える。どうやら森の外れまで来たらしい。
「ふぅ……確か建物を出た時には遠くに見えてた山がすぐ近くに……こんなに運動したのはて久しぶりね。
いきなり殺し合いさせられるのはムカつくけど、全力でマラソンする機会を与えてくれたのには感謝してもいいかも。
10kgくらい痩せたかしら?」
疑問形だが、もちろん返答など期待していない。
ともすれば恐怖に壊れそうな心を安定させるため、意識して軽口を叩いているだけだ。
だが、意外なことに返事があった。
「ぷっ、はははっ、そうですね。10kgくらい痩せてるかもしれませんよ」
秋穂が声のした方へ振り向くと、木の上から高校生くらいの少年が地面に降り立った。
「…一応訊いておくわ。あなたはこのくだらない殺し合いに乗るの?」
支給されたバッグに入っていた小太刀を咄嗟に構えながら秋穂は少年に問う。
秋穂に殺し合いをする気は全くない。脅して追っ払うつもりでいた。できるかどうかは分からないが。
「奇遇ですね。俺も殺し合いなんて馬鹿げてると思っているんですよ」
「え! 嘘でしょ」
当然、秋穂は肯定の返事が来ると思っていた。
いや、返事もせずにいきなり自分を殺そうとすることもありえるとさえ思っていた。
まさか少年が自分と同じように考えているとは思いもしなかったので、秋穂は言葉が出てこない。
「…そんなに驚くことですか?」
少年は秋穂の驚きようを見て、心外そうな顔をする。
もちろん、これはただの演技で秋穂が油断して隙を見せたところで殺すつもりなのかもしれない。
だが、秋穂は少年の澄んだ目を信じてみることにした。
「ご、ごめんなさい。最近の若者ってすぐにキれる暴力的なのが多いと思っていたから」
「まあ、それは否定できませんけど」
苦笑する少年。
「あ、俺は高町恭也といいます。私立風芽丘高校の3年で、小太刀二刀・御神流という流派の師範代でもあります」
「ふーん、小太刀二刀流……師範代……ね」
「どうかしましたか?」
「いえ、何でもないわ。私も自己紹介しておくわね。篠原秋穂。毎日コピー取りとお茶くみに追われるしがないOLよ」
「あ、そうなんですか」
「ええ。私は営業にがやりたいんだけどね」
「なるほど」
殺し合うのが当たり前な状況下にも関わらず、二人は世間話をしていた。