Zakkaya of the dead

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(一日目 03:17 雑貨屋店内)

(紗霧が雑貨屋の物を物色している)
ふむ、この位でしょう。飲料水にトイレ洗浄液、あと雑貨をいくつか……と。
今はここまでですね。あとは必要な時に再補給するとしましょう。
さて、あとは……私以外の者が来た場合の対処法ですか。
今は必要無いとはいえ、他の人が有利になるのは少しでも避けたいですね。
ここはひとつ、やはり何か仕掛けておいた方が良いでしょうか。
再び私がここに来る事を考えると、爆発系のトラップは考え物です。
できれば個人レベルで、かつ致命傷を与えうるトラップを……?
(土間の方に移動する)……ふむ、これは使えそうですね。


(一日目 4:05 雑貨屋前)

「ここに、救急箱でもあればいいんだけど……」
泰男の身体を支えつつ、ようやくまりなは雑貨屋の前に辿り着いていた。
本来ならば病院がベストだったのだが、中から聞こえてきた銃声により
方向転換を余儀なくされたのだ。
今のまりな達は直接攻撃力を持つ武器を持っていない。
戦闘は極力避けたいところだった。
「お邪魔しまーす……」
小さな声でゆっくりと中に入る。どうやら店内は誰かに物色された後らしく、
棚のあちこちが空になっていた。
「お願いだから、誰もいないでよ……もうここしかアテが無いんだから……」
まりなはそう祈りつつ、更に奥へ進む。
店の奥のガラス戸は開いており、窓から月光が差し込んでいた。


「オジサマ、段差があるけど我慢して……」
「うっ……」
苦しげに頷き返す泰男。既にその顔色は蒼白である。
「(失血量が多すぎる……!)もう少しで治療できるから!」
居間に上がり、まりなは泰男の身体をゆっくりと床に下ろした。
「今救急箱を探すわ。待ってて……!?」
背負っている時には全身が見えなかったが、泰男の姿は凄惨なものであった。
右腕は根元から完全に切断されており、黒いタキシードの半分を赤黒く染めている。
正直なところ、失血死してもおかしくない状態であった。
「……………っ!」
「法条さん……大丈夫だよ。だいぶ落ち着いてきたからね……」
思わず言葉を失うまりなに、泰男はそう言って微笑む。
大嘘だ。
まりなはそう言いたくなるのを抑えて、再び店内に戻った。
―――10分ほどで救急箱は見つかった。
「よしッ!」
すぐに泰男の所に戻る。
「っと、いけない……」
ぴしゃん。
少しでも中が分からないようにガラス戸を閉める。すりガラスだからすぐには
バレないはずだ。
「オジサマ、服……脱がしますね」
「……すまない」
タキシードとシャツを脱がし、傷口を露わにする。
「(傷口は思ったより鋭い……せめてもの救いね)」
店にあった縄跳びの紐で肩を強く締め付け、傷口を飲料水で洗い流す。
救急箱には包帯は入ってはいたが、流石に消毒液は入っていなかった。
やむを得ずこれ以上の消毒は諦め、包帯を巻く。
完璧には程遠いが、これで応急処置にはなる筈だ。


「止血は済んだわ。あとは少し休みましょ」
「……すまない。君の足を引っ張ってしまって……」
「ストップ」
多少落ち着いてきたのか、先程よりははっきりした口調で泰男が言った。
それをまりなは人差し指を立てて遮る。
「オジサマは私に言ってくれたわ、力を貸してくれるってね。
 だから私もオジサマに力を貸しただけ。お互い様よ」
「……やれやれ、法条さんには叶わないようだ。
 ……それで、私が力を貸せる事は?」
真剣な瞳でまりなを見つめる泰男。
「(ポッ……じゃなくて)今はいいわ。少し休んでからで……」
「いや、今の方がいい。私が質問に答えられる内にね……」
「……………」
正論だった。正直、応急処置が済んだとはいえそこまでの時間が掛かりすぎて
いる。まだ泰男の衰弱は激しいし、何より移動中に傷口に菌が入ってしまって
いたら破傷風の可能性もあるだろう。
「……分かったわ」
うなずくと、まりなは再度手帳を取り出した。
「それじゃオジサマ、とりあえず幾つかの質問に答えてもらえる?」
「ああ……」
「まず第一問、オジサマのいた国は?」
「?……日本だが……」
「第二問、ここに連れて来られるような心当たりはあるかしら?」
「……いや、全く無いな」
「第三問、……ここに連れて来られる直前の記憶を教えて」
「ええと……少し待ってくれ……」
泰男はぼやける頭から自分の記憶を何とか引き出そうとする。
「……確か、新しくできた4号店の視察に行って……その帰りに急に意識が
 薄れて……」
「その季節は?」
「それは当然夏……!?」


「……やっぱり」
目を見開く泰男に対し、まりなは冷静に答えた。
「どういうことだ?今は……」
「断定はできないけどおそらく秋……もしくは初冬ってところでしょうね」
「つまり、私は数ヶ月間あそこで眠らされていた……?」
「……少し違うわ」
まりなは手帳の1ページを泰男に見せる。

法条まりな・日本・春
高橋美奈子・日本・夏
涼宮 遙・日本・夏―――

「これは?」
「行方不明者から割り出した『ゲーム』参加者予測リスト。あくまで予測
 だけど、多少ならデータもあるわよ」
「……………」
「見ての通り、参加者が行方不明になった時期はみんなバラバラ……いいえ、
時期どころか、明らかに人間じゃない奴等もいる」
「ああ……」
泰男は自分の腕を切り落とした少女の事を思い出した。チェーンソーを腕に
つけた、ヒトならぬ動きをするメイド。
「これはあくまで私の推測だけど、おそらくここは私達の知る世界じゃないわ」
「馬鹿な……と言いたい所だが、信じるしかないようだな」
「ええ、もしこの仮定が正しいなら、私達がここを脱出する為には3つの壁が
 存在することになるの」

1・首輪の破壊、もしくは解除。
2・主催者の拿捕、もしくは殺害。
3・元の世界への帰還。


「……全く、どうしたものだか……?」
「まずはこの首輪の解除法を探る必要があるでしょうね。それと同時に一緒に
 戦ってくれる仲間を探す。今は……それしかないわ」
「うむ……」
「……さてと」
話しが一段落して、まりなは立ち上がった。
「それじゃオジサマ、外の様子を見てくるわ」
「待ってくれ、私も……」
それを追って立とうとする泰男だが、眩暈でよろめく。
「無理しないで。私なら大丈夫よ」
そう答えて、まりなはガラス戸を開け―――
―――それは落ちてきた。

「え……?」
それが何なのかを確認する暇もなく、
「………ッ!」
どこにそんな余力があったのだろう?
突然、まりなと「それ」の間に泰男が割って入った。一瞬も間を開けず、
ドッ!
何かが叩き込まれる音とともに、まりなの顔に血が跳ねる。
「……オジサマ?」
「……どうやら、君の役に立てたようだな……」
呆然とするまりなに泰男が微笑みかける。
彼の腹部から、一本の杭が突き出ていた。その後ろには、餅つきの杵のような
物体が、太目のテグスでぶら下がっている。
そのテグスは天井の梁を通って―――ガラス戸に伸びていた。


「!?」
瞬間、まりなは自分が致命的な見落としを犯したことを悟った。
ガラス戸は先客が閉め忘れていったのではない……わざと開けていったのだ。
閉める事が罠のトリガーとなるように―――一度中に入った者を仕留める為に。
「オ……オジサマッ!?」
まりなはとっさに泰男に駆け寄った。
「今っ!今抜くからッ!」
「……いいんだ」
「……っ!」
「これを大丈夫と思えるほど……私は楽天家ではないよ」
小さな声で答える泰男の口から大量の血が吐き出される。
「(肺も……!)」
「ほ……法条さん……お願いが、2つあるんだが……聞いてくれるかな?」
「な、何!?」
「………」
もはや声を出す力も残ってはいないのか、唇を振るわせる泰男。
まりなは、かろうじてそれを読唇術で読み取る。
「首……輪?サンプル?」
「……(こくん)」
「ッ……そんなっ!それって……ッ!」
「………」
「………分かったわ……ごめんなさい……ごめんなさい……」
まりなの頬を涙が落ちる。泰男は震える手でその頬に触れ、雫を拭った。
「………もう一つは、何?」
「………」
「生き……延びてくれ?
 ……ええ、約束するわ。絶対にみんなと一緒に……生きて、帰る」
「………」
その返事を聞き、泰男は優しげに笑い―――そして、絶命した。


(一日目 4:35 雑貨屋前)

まりなは一人、雑貨屋を出た。
その手には一本の血染めの首輪が握られている。
「ごめんなさい……」
一言だけまりなは呟き、歩き出した。
この首輪の解除法をなんとしても捜す。そのために。
「今度こそ……貴方との約束、守るから……」
手にした首輪に、涙が一粒落ちた。


死亡:【No.30 木ノ下泰男】
―――――――――――残り34人。


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