誤解に始まり、悪意が加速させる。(2)
♪やっちゅ〜 げっちゅげっちゅげっちゅ〜
♪おも〜〜〜いとどけ ラヴ ミ〜〜〜
「……なんなのだ、ヘル野武彦、その珍妙な歌は」
魔屈堂が口ずさむその意味不明な歌に、エーリヒは顔をしかめる。
「ああ、これはの……萌え歌じゃよ」
「萌え歌?」
「萌えの心を言葉で説明することは不可能じゃ。黙ってこれを聞かれい、エーリヒ殿」
魔屈堂はその耳に付けていたイヤホンを外し、エーリヒの耳に繋ぐ。
♪ひ・み・つ!
♪い〜つものふく〜に〜 き〜がえて〜〜
♪あはん マジカル・ぶっくま〜く……
「……ヘル野武彦。日本は既に音波兵器を完成させていたのか?」
「わしも始めはそう感じた。みなみおねえさんの歌声は敷居が高いからの。
だが、それにじっと耐え、何度も何度も繰り返し聞いているうちに、
(;´Д`)な気持ちが(´▽`)に変わってゆくのじゃ」
「なるほど、音波兵器ではなく洗脳兵器であったか。あなどれんな、日本の科学力は」
病院の待合室を歩きながら、大いにずれた会話をする2人。
彼らは森での邂逅の後、今後の身の振り方を相談した。
テーマはひとつ。
『若い命を無駄に散らせないためには、どうするのが良いのか』
・脱出方法
・情報収集
・主催者打倒
・資材収集
・人命救助
2時間以上に渡る密度の濃い討論の末、2人は身の振り方を決した。
サバイバルに必要な資源を集めつつ、島の全体像を把握すること。
争いを見たら止めること。
情報と資材の収集メインに、余裕があったら人命救助をこなすというスタンスを決め、
最初の目的地―――病院へとたどり着いたのだった。
「ヘル野武彦。君は薬品についての知識をもっているか?」
「オタクの知識量を甘く見ないで頂きたいのう、エーリヒ殿。
古くは『BlackJack』から新しくは『Dr.コトー診療所』まで愛読しておるわい。
しかし、あのWebアニメのピノコは……ピノコは……
まさにアッチョンブリケじゃったのぅ……」
エーリヒには、並べられた単語の意味は解らなかった。
しかし、魔屈堂の自信漲る様子を見て、「大丈夫であろう」と判断した。
……単語の意味が解っていれば別の判断を下しただろうが。
「それではヘル野武彦、君は薬品を頼む。私は医療器具を手に入れてくる」
「了解した」
老成した男たちはてきぱきと持ち場に向かった―――いや、向かいかけた、その時。
「きゃああああああ!!」
2階から悲鳴が響いた。
「む、絹を裂くよな乙女の悲鳴!!ゆくぞ、エーリヒ殿!!」
「うむ」
言葉を交わす前に、体は動いていた。