機械と人外(3)
静かな声で答えるや否や、千鶴は猛攻撃を開始した。
ザシュッ!!
袈裟斬りに、左肩から一撃。
ザシュッ!!
ナミに体勢を整える間を与えず、返す刀で右脇から左肩へ。
ナミの小さな……しかし100kgを越す重量のある体が、宙に浮く。
そこへもう一発。
ドゥ!!
強烈なショルダータックルを鳩尾に受けたナミは、農道を超え、顔面から水田へ突っ込んだ。
その飛距離、約14m。
どの一撃も、今大会1・2を争う防御力を誇るナミが相手でなければ、致命傷を与えていたであろう。
それほどまでに圧倒的な、鬼の……狩猟者のパワーだった。
ナミの自己保存プログラムは一連の攻撃におけるダメージの算出を、各神経系デバイスに命ずる。
破損個所、確認。
ボディ、肉感性シリコン、断裂多数。アーマー層に亀裂一本。
高速移動用冷却装置、応答せず。
左手、人差し指と中指紛失。神経ケーブルより漏電あり。
自己保存プログラムはメインプログラムに演算結果を返す。
(大丈夫です、まだまだ戦えます。でも……)
先ほどのコンボを成す術も無く喰らったとき、ナミのレンズは身を切り裂く赤い残光の正体を見極めていた。
それは、赤く肥大化した『手』そのもの。
禍々しく伸び、異物に弯曲した5本の『爪』。
(武器を奪って敵を無力化することは不可能です。
どうすれば……何か方法は……)
ナミは、持てる演算回路を全て起動させ、その解を求めた。
(今、私は完全に押している。
あの子がリズムを取り戻さないうちに、畳み掛けないと。)
水田でよろよろと立ち上がったナミを見て、千鶴は瞬時にそう判断した。
今度は上空ではなく、前方に向かって跳躍する。
とぷん。
瞬きする間に水田まで到達。
ナミは防御するでも反撃するでも無く、だらりと左手を下げた。
「さようなら」
必殺の手刀を繰り出す千鶴。
しかし、それより先に、ナミの左手が水面に触れた。
……神経ケーブルが剥き出しになった左手が。
バリバリバリバリ!!!
千鶴の体全体に、落雷のようなショックが走り。
「!」
悲鳴をあげる間もなく、ばしゃりと前のめりに倒れこむ。
カッと見開いた目に、「さようなら」の「ら」の形に開いたままの口に、容赦なく泥水が沁み込んでくる。
(いったい、何が……)
千鶴には状況が飲み込めなかった。
ヴイィィィィィ…
甲高くヒステリックに唸る音が千鶴の耳元に迫る。
その音を鳴らしているものが、千鶴の首に触れた。
ぎゃるぎゃるぎゃるぎゃる……
ぶぢゅるるるるるる……
振動にあわせて、全身がガクガク揺れる。
(耕一さん……
私があなたに甘えることが出来ていたなら、違う未来があったのでしょうか……)
高圧感電により肉体感覚が麻痺していることが、千鶴にとってせめてもの慰めだった。