機械と人外(1)
(やっぱりここでも、一人なのね……)
学校の北東の森を抜け、農道に出たその女性は、腰まで伸びた髪を指先でくるくると弄りながら、
深いため息をついた。
彼女は、とても責任感が強い女だった。
しかし、裏を返せば人に頼るということが出来ない女でもあった。
気立ても良い。器量も良い。良縁が無かったわけでもない。
けれども、家庭では3人の妹たちの母親代わりをしなくてはならないという責任感が、
社会人としてはグループ500人の生活を護らなければならないという責任感が、
自分の幸せを追うことを『無責任』であると位置付けてしまい……
もう31だ。
去年から、彼女は一人で暮らしていた。
かつては確かに暖かな団欒のあった、あの大きな家に一人きりで。
次女は、学生結婚してしまい今では立派な2児の母になった。
四女は、自立することを決意し、彼女の制止を振り切って単身上京してしまった。
そして三女は……従兄の青年の元に嫁いでしまった。
「耕一さん……」
柏木千鶴(No.21)は、三女の夫である従兄の名前を、愛しげに呟いた。
31年の人生の中で、唯一、彼女が愛した男。
しかし、その思いは遥か昔に封印したまま、彼に伝えたことはない。
妹の幸せを願う母心が勝っていたから。
彼を殺そうとした自分に、彼を愛する資格はないと思ったから。
年甲斐も無く涙ぐみそうになり、慌ててそらを見上げると、西の空に丸い月が赤く光っていた。
あの『覚醒夜』、水門の上で見た悲しい月と同じ色の。
「耕一さん。」
もう一度名を呼んだその時
ぱららららっ!
胸に衝撃を感じた。何度も何度も。
視線を戻すと、10メートル程先に、メイド服を着た少女が見えた。
(迂闊だった…)