守りたいもの、ありますか?(5)

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(一日目 3:24)

 秋穂は信じられないといった顔で恭也のことを見る。
「本当に知らないの?
 実際の街そっくりに作ってある仮想世界―ヴァーチャルスペース―で、容姿や服装が正確に再現されてて。
 視覚や聴覚はおろか物の感触もフィードバックされてて…」
「…ヴァーチャルリアリティってやつですか? 俺、コンピュータにあまり詳しくないんですけど、
 でも、そんな技術が実現されたって話は聞いたことないです」
「何言ってるのよ。実現されてるに決まってるじゃない!
 超リアルな仮想現実で主にカップルの出会いの場として利用されてて…」

 今の秋穂にとって、五月倶楽部での工藤肇とのデートの記憶は心の拠り所になっていた。
 それを恭也に否定されて、彼女は必死に五月倶楽部について説明する。
 だが、恭也は…
「……もしかしたら」
「何?」
「もしかしたら、俺と秋穂さんは違う世界の人間なのかもしれない」
「はぁ? 何言ってるのよ。そんなことあるわけないでしょ!」
「参加者の中に、緑色の鎧に赤いマントを身につけた、まるでファンタジーの世界から抜け出てきたような男性がいたのを覚えてますか?」
「ああ、確かいたわね。そんな変な奴が。不敵な顔して殺る気満々だったわね。全くどういう神経してるんだか」
「もし、あの男性が本当に剣と魔法の世界から来たんだしたら…」
 突然恭也に突拍子も無いことを言われて、秋穂は目を白黒させる。
「そんなことあるわけないじゃない」
「そうでしょうか? でも、もしそうだとすれば説明がつくこともあります」
「何がよ?」
「あの男が虎男を倒した方法です」
「あの男ってのはえらそうな主催者のことで、虎男ってのはタイガーなんとかって変な名前の人のこと?」
「はい」
「私はよく知らないけど、あの男が使ったのは何かの武術じゃないの? 奥義とか何とか」
「いえ、アレは奥義というレベルじゃないです。普通、技というものには準備動作があります。
 でも、あの男にはそれが無かった」
「……単に見えなかっただけじゃないの?」
「そうかもしれません。でも、あの男が一種の超能力を使えるのだとしたら説明がつきます」

 秋穂の堪忍袋の緒が切れた。



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