俺様のための武器
(一日目 11:55)
「アリスメンディさんは、どうして私のことをお姉さんと呼ばれるのですか?
私のほうが年下だと思うのですが」
「棒姉妹だから」
ガスッ!
「い、いった〜〜〜〜〜ッ!
ど〜ぉしてわたしがゲンコでゴッチンされないといけないそのワケは?」
「下品だからだ」
「ぼうしまい?」
「……よいこは、知らんでいい」
仮眠を3時間ずつ取ったランス一行は、
配布された非常食を頬張りつつ、軽い雑談をしていた。
この緊迫したゲームの只中にあって、和気藹々とした空気を醸し出しているのは、
ランスの無根拠な自信と、アリスメンディのおばかさん加減の賜物だ。
「しかし、このランス様の斧を盗むとは、あのナイチチ娘にはむかつくな。
今度会ったら、きっついお仕置きをしてやらにゃならん」
「縄ムチ浣腸バイブに蝋燭〜〜ッ♪」
「……あの、お仕置きよりも先に、斧を取り戻すことを考えたほうがいいのでは」
ユリーシャの指摘する通りだった。
今、3人の手元にある武器は、ユリーシャの弩弓のみ。
ランスが森の中で手折った『棍棒もどきの枝』はあるものの、
今後激化するであろう戦いを生き抜く上では、余りにも心許ない。
「そういえばアリス。お前の配布物はなんだったんだ?」
「剣だったよ。おっきいの」
「何!?」
ランスはアリスの発言に目の色を変える。
「お姉さんの身長位の長さだったよ」
145cm……バスタード・ソードと言ったところか。
それは戦の申し子、ランスが最も使い慣れた武器。
十分な固さが備わっていれば、必殺のランスアタックを放つことも可能だ。
「おもおもだったから、とちゅーでポイってした。
あんなの、わたしには振れないし」
「なーーーーんちゅう気の利かないヤツなんだ、お前は!」
「おっこること無いじゃんか、ぷんすか!
あのときは、まだランスと会ってなかったんだし」
普段は自信過剰な楽天家でしかないランスだが、
人生の要所・転機では、獣のような嗅覚を発揮する。
その嗅覚が、アリスが捨てた剣を『必要』だと訴えていた。
「ビビっと来た。それは、俺様のための武器だ。
剣のヤツもランス様を待っているに違いない」
「で、どこに捨てた?」
いつに無く真剣な表情で、アリスに尋ねるランス。
「海岸」
「何ィ!? ……で、どのあたりだ?」
「えっとねぇ……とーだいが見えたような、そうでもないような」
「ユリーシャ、」
「地図ならここに」
ユリーシャは既に地図を開き、灯台を指差していた。
「……お前は気が利くな」
「ありがとうございます」
灯台―――島の東海岸線にある。
距離は、ここから約2km。
「とにかく、東の海岸線の、どっか。それだけは超絶正しいハズ」
「わかった」
ランスは地図から目を離し、すっくと立ち上がると、脱ぎ捨ててあった鎧を手に取る。
「とにかく案内しろ。細かいことは歩きながら思い出せ」
無言でランスの鎧装着を手伝っていたユリーシャは、
真紅のマントを彼の背にかけながら、おずおずと尋ねた。
「あの……ついていってもよろしいですか?」
「いいこで待ってろ」
「……はい」