笑う男

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たった今眼前で虎の覆面を被った男がいとも簡単にその命を奪われた。
堂島薫はいたって平静な表情を崩さなかったが,内心の狼狽は抑えようがなかった。
自分は常に奪う側の人間であり,望むものは手に入れてきたからである。
金,女,地位や名誉,そういった世俗の栄誉の全てを堂島は掴み取ってきた。
だが,今の彼にはそれを彼になさしめた部下も人脈もない。
まわりを見まわしても珍妙な恰好をしたものや年端もいかぬ少女が混じっている始末だ。
挙句の果てには虎の覆面を被った男は武術の素養があるようだったが,
いともたやすく葬り去られてしまった。彼の胸中に様々の思いが去来する。
ややあって堂島は彼一流の下卑た微笑を口元にたたえて「ヒヒ」と笑った。
(生き延びれば部下にするといっとるんだ。だったら生き残ればいい。
 たったの40人,いや一人死におったから39人か。堂島薫をなめるなよ)
虎男の死に静まりかえる一同を尻目に,彼はほくそえんだ。       


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